田村隆一『腐敗性物質』(講談社文芸文庫)

実に良かった。硬質な力強い言葉に思わずカッコイイ、と叫びたくなる。詩の良さもだんだんわかってきたのかもしれない。大手拓次の詩集も早く買わなければ。

空から小鳥が墜ちてくる
誰もいない所で射殺された一羽の小鳥のために
野はある
 
 
窓から叫びが聴えてくる
誰もいない部屋で射殺されたひとつの叫びのために
世界はある
 
 
空は小鳥のためにあり 小鳥は空からしか墜ちてこない
窓は叫びのためにあり 叫びは窓からしか聴えてこない
 
 
どうしてそうなのかわたしには分らない
ただどうしてそうなのかをわたしは感じる
 
 
小鳥が墜ちてくるからには高さがあるわけだ 閉されたものがあるわけだ
叫びが聴えてくるからには
 
 
野のなかに小鳥の屍骸があるように わたしの頭のなかは死でいっぱいだ
わたしの頭のなかに死があるように 世界中の窓という窓には誰もいない
 
 
「幻を見る人」より

腐敗性物質 (講談社文芸文庫)