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- 澁澤龍彦『東西不思議物語』
- 全集15巻所収。新聞に連載したものをまとめた本らしく、とにかく読みやすい。洋の東西を問わず、「不思議」なお話を49篇収録。「天から降るゴッサマーのこと」では空から雲の巣の様なものがフワフワと降って来た話を紹介しているのだけど、これは東北地方では「雪迎え」とか「雪にょうぼう」とか言われているものらしい。うろ覚えなのだけどトリビアの泉でも似たようなものが取り上げられていたことがある気がする。「屁っぴり男のこと」はパリに現れたオナラで国歌を演奏できた男の話。世界は広い。ISBN:4309400337
それにしても、不思議を楽しむ精神とは、いったい何であろうか。おそらく、いつまでも若々しさを失わない精神の別名ではなかろうか。驚いたり楽しんだりする事ができるのも一つの能力であり、これには独特な技術が必要なのだということを、私はここで強調しておきたい。
「前口上」より P.21
- 澁澤龍彦『洞窟の偶像』
- 同じく全集15巻所収。ネルヴァル、コクトー、マンディアルグ、ビアズレー、ナボコフ、シュルレアリスム、三島由紀夫などなど実に澁澤的なテーマが集まった評論集。マンディアルグについて書いてある章に思わず唸っちゃった。幻想的なイメージにそこはかとなく漂う狂気みたいなものはこういう事から説明できるのかな、と。変質的なまでの細部への執着。
細密描写のリアリズムと幻想とは矛盾するではないか、という疑問をもつ人がいるかもしれない。しかし、ボッシュやゴヤの絵を見ても分かるように、幻想芸術とは、もともと明確な線や輪郭とともにあるものであって、幻想家の見るイメージには、どこまでも鮮明な、灼きつくように鮮明な細部が伴っていなければならないはずのものなのである。曖昧さや不正確さは、幻想とは何の関係もないということを知るべきだろう。
「ピエール・ド・マンディアルグについて」より P.248-249