植草甚一スクラップ・ブック10 J・J氏の男子専科』(晶文社
映画や推理小説、ジャズ以外の趣味のお話を集めた一冊。ライターとか服とかコーヒーとか、男のこだわり、物欲の世界。ボクは物欲の固まりのような人間なので共感することしきり。

 ぼくは厚生年金で七時開演のマイルス・デイヴィスのジャズを聴きにいくために新宿の通りを歩いていた。そうしたらある店のウィンドーに正価より四千五百円安い西独ライターがちゃんと出ているではないか。
 そのとき開演十五分前だったので帰りにしようかと思ったが、そうすると演奏中に買おうか買うまいかと考えるにちがいないので、いそいで買った。そうして歩きながら、どんなもんだい、とつぶやいたのである。
 
「ライターとジャズ」p.17より

 
J・J氏の男子専科 (植草甚一スクラップ・ブック)