宮城道雄『新編 春の海』(岩波文庫
天才箏曲家、宮城道雄のエッセイ集。百間の友人であり、列車からの転落死と言う非業の死を遂げた事でも有名。琴とか尺八とか、いわゆる邦楽をしっかり聴いた事がないので「春の海」「水の変態」と言った宮城道雄の作品を近い内に聴いてみたい。9歳から全盲となった宮城は音だけの世界に生きる訳だが、目が見えなくなって良かった、とまで言う想像以上に豊かな世界がある。
武田泰淳『目まいのする散歩』(中公文庫)
以前短編を1つ読んだ事があるだけだったが俄に注目気味。泰淳だけでは無くて、妻の武田百合子、娘の武田花、と武田ファミリーに興味あり。この本は生前最後に刊行された物らしい。一見すると只の散歩、旅行を題材としたエッセイ集だが、自らの心境が語られるのでは無くて、視線は他者に向けられている。後藤明生が「他者」や「人間と人間の関係」といった言葉をキーワードに解説を書いていて興味深い。とりあえず、泰淳の他の作品をもっと読まなきゃ始まらんな、という気分。(ISBN:4122005345

孔子は世界の批判者であるが、孔子は世界の全体ではない」という『司馬遷』の中の一句が思い出される。そして、これこそ武田氏がずっと思いめぐらして来た、小説の世界そのものではなかったかと思う。つまり、世界の批判者である孔子を、世界全体の中で考え、捉えようとする目である。
 
 
後藤明生による解説より

新編 春の海―宮城道雄随筆集 (岩波文庫)