ツィゴイネルワイゼン

内田百間内田百間集成4 サラサーテの盤
百間の幻想小説集。表題作は鈴木清順ツィゴイネルワイゼン」の原作。この短編を換骨奪胎しあの映画に昇華した清順の凄さにビックリ。文庫巻末の松浦寿輝の解説が百間の文章の特異性をうまく説明しており非常に印象的だった。
自分なりにまとめておくと、「揺揺(ようよう)と云う玩具を弄んで寝た」と始まる内田百間の随筆において、上下しているのはもちろんヨーヨーの方だが、「仮に揺揺の方を固定して考えれば」、ゆらゆらと上下に踊っているのは自分の方だ。揺れているのは私か、ヨーヨーか。普通ならばじっと固定して動かないはずの現実が、いきなり身じろぎしてゆらゆらと踊り出す。これだけならいわゆる普通の幻想文学にざらにある。だが、更にもう一つ事態を反転し、現実の方を固定して考えるとどうか。いつしか幻の方が定点となって宇宙の不動の中心となり、私の方が何ものかに振り回されて宙を舞っている。だが、この定点が現実と幻のどちらにあるのかは、はっきりしない。揺れているのは私か、ヨーヨーか。それは私でもあり、ヨーヨーでもある。定点が揺れ動く事で生じる独特な酩酊感、これが百間の文章の特徴と言えるのでは無いか。

サラサーテの盤―内田百けん集成〈4〉 (ちくま文庫)